2020年2月10日、GOOD LOCAL COMMUNITY(GLC)のトークイベントが開催されました。テーマは【ポートランドから考える「まち」の未来】。今回、アメリカ・オレゴン州のポートランドに精通した特別ゲストをご招待。福知山をはじめとした、日本の地域に必要なことを探りました。
ポートランドから考える「まち」の未来
アメリカ西海岸・オレゴン州の北西部、シアトルとサンフランシスコの間に位置する「ポートランド」。市内の人口は約64万人で、千葉県船橋市や鹿児島県鹿児島市と同じくらいの規模です。
今回、ポートランドに精通している特別ゲスト・奥野 剛史(プロフィール)さんをご招待。福知山ワンダーマーケット実行委員会・共同代表の庄田 健助さんとのトークセッションが行われました。
2人に共通しているキーワードは、『自由大学』と『CREATIVE CAMP in ポートランド』です。庄田さんは、2019年9月に『CREATIVE CAMP in ポートランド』に参加。特別ゲストの奥野さんは現地キュレーターとして同行しました。
自由大学は、ユニークな講義を展開する学びの場。2009年に東京・青山で開講して以来、「大きく学び、自由に生きる」をテーマに約200種類のオリジナル講義を企画しています。そのなかのひとつが、CREATIVE CAMP in ポートランド。ポートランドに滞在し、現地の人たちと出会い、クリエイティブな精神を学ぶ自由大学のプログラム。毎年大人気の講義です。
トークセッションでは、奥野さんと庄田さんが『CREATIVE CAMP in ポートランド』を軸にしながらポートランドの現状や特徴を紹介。旅路を振り返るなかで、ポートランドの「本質的な魅力」が浮き彫りになりました。いくつかあるなかで、注目したのは以下の3点です。
・本質に着目する
・地元の人を応援する
・COMMUNITY NOT COMPETITION
今回のレポートでは、これらのキーワードをもとにイベント内容を振り返っていきます。ポートランドについて旅するように学びながら、地域の未来を考えていきましょう!
本質に着目する
クリエイティブ&サステナブルな環境。
オシャレでカッコいい街並み。
これらはポートランドならではの魅力です。でも、普段の暮らしぶりを眺めたり、働く人の話に耳を傾けたりしていると、表層的ではない、本質的な魅力が見えてきます。
庄田 健助(以下、庄田):ポートランドに興味を示している人の多くは、格好いい街並みやクリエイティブな雰囲気に惹かれていることが多いと思います。僕もそのひとりだったんですけど。
奥野 剛史(以下、奥野):表層的なところを見るとそうですよね。でも、『CREATIVE CAMP in ポートランド』は「本質的な部分をいかに見るか?」をテーマにしています。明確な答えはないんですけど、そこをなるべく考えてもらうという趣旨がありました。例えば、『Coava Coffee Roasters(コアヴァコーヒーロースター)』ですね。
奥野:特徴的なのは、竹材メーカーのショールームと場所をシェアしていること。内装やカウンターに竹素材を使っていて、格好いい空間なので観光客の人たちとかは写真を撮っている。でも、じゃあ、なんでこのコーヒーショップがこんなにも地元の人に評価されるのかという問いかけがあって。CREATIVE CAMP に同行した自由大学ファウンダーの黒崎輝男さんは「大事なのは竹材メーカーのショールームと場所をシェアしていることで、そのスピリットで始めたからこそ地元の人から支持されているんだよ」と話していました。
庄田:店内の空間がカッコいいから、興奮気味に写真を撮っちゃいますよね。僕もバシャバシャ撮ってたら怒られました。こっちを撮れって(笑)
庄田:それまではビジュアル的な魅力を追いかけてしまいがちでしたが、『CREATIVE CAMP in ポートランド』が「なぜ、このような状況が生まれているのか?」を確認しにいくツアーなんだと意識が変わりました。
奥野:たとえばいろんなお店を駆け足でたくさん回っても、店内の写真を撮影して、5分ほど滞在したら、次に行こうみたいな感じだと、どうしても表面をなぞるだけになってしまいますよね。
庄田:今回の『Coava Coffee Roasters』もそうですけど、店主やオーナーの言葉を聞けるのがとても大きかったですね。目に見えている光景や観光冊子の紹介文では知ることのできない、今の状況をつくりだしている根っこの部分に触れられる機会でした。
地元の人を応援する
ポートランドにはスモールビジネスを営む人がたくさんいます。
マイクロブリュワリーと呼ばれるクラフトビールの醸造所、クラフトコーヒーショップ、活版印刷所、手作りドーナツ屋など。市内のあちこちに個人店が点在しています。また、農作物を育てるのに最適な気候と立地が揃っており、毎週いくつかの場所で開かれるファーマーズ・マーケットは市民の生活にかかせないマーケットです。
とはいえ、個人店を続けていくのはとても大変。ポートランドには地域・メイカーズ・消費者、それぞれの間にどのような循環が生まれているのでしょうか。
奥野:先程の『Coava Coffee Roasters』の成り立ちは、最初は小さい焙煎機を買って、ファウンダーのガレージからはじまったんですね。ポートランドの人たちは、このような地元でチャレンジする人を応援する文化があります。大手コーヒーショップもありますが、なるべく、地元の物を地元の人から買いたいという意識があるんですよ。
庄田:店主やオーナーの話を聞いていると、応援したくなる気持ちも分かります。ここもチャレンジしているなと思ったのはインテリア家具を手がける『THE GOOD MOD』。ダウンタウンにある4階建の古い建物に工房を構えていて、もともとはミッドセンチュリーを中心とした家具の補修販売から始まったんですよね。
奥野:そうですね。最初はビンテージ家具の販売から始まって、徐々にオリジナル家具を増やしていって。そこから地元のカフェやAirbnb、クリエイティブオフィスに納入されるようになって、ポートランドの外からも注文が入るようになった。地元に支えられて成長した家具屋さんだなと思います。
庄田:家具だけでなく、野菜や食材もそうですよね。地元のスーパーマーケットに行ったら、地元の農家さんが栽培したものがたくさん並んでいるのが印象的でした。地元産のクラフトビールとかドリンクもめっちゃあったし。日本ではあまり見られない光景だなと。
奥野:ここは『WHOLE FOODS MARKET(ホールフーズマーケット)』ですね。地元で採れたものを含め、新鮮な野菜や果物、オーガニック食材などが並んでいます。
庄田:福知山ワンダーマーケットを運営していると感じるのが、スモールビジネスを営む方はたくさんいるけれど、経済的な安定とはどうしても距離が発生していること。一方で、ポートランドは「自分らしい仕事」と「経済的な安定」が両立できているなと。『MAAK LAB(マークラボ)』を訪れて特に感じました。化学薬品や添加物を一切使わずに、地元の農家さんやポートランド周辺で獲れる天然素材で石鹸や香水をつくっている石鹸屋さんです。
奥野:もともとはカップル2人でスタートしたのですが、今ではポートランドのホテルにも商品を卸していて、安定した売上も確保している。日本にも代理店もあるみたいですね。
庄田:ポートランドには、スモールビジネスを応援しながら、ちゃんと商品を買ったり、投資したりするような好循環がありますよね。経済的な安定が成り立ちやすいなと。それでも続けていくのは難しいと思いますが、おもしろいチャレンジする人が安定して、増えていけば、世の中がより良くなるんじゃないかなと思うんですよね。
COMMUNITY NOT COMPETITION
ここ数年前から、地域コミュニティという言葉を耳にすることが多くなりました。その定義は幅広いですが、端的に説明すれば、「地元住民がつながり、より良い地域を目指すこと」となるでしょう。自分だけが幸せになるのではなく、自分を含む、みんなが幸せに暮らせる地域をつくる。ポートランドにはどのような地域コミュニティが根付いているのでしょうか。
奥野:ポートランドのノースイーストにある、ひと口サイズのドーナツ屋『Pip’s Original Doughnuts & Chai(ピップス・オリジナル・ドーナツ・アンド・チャイ)』。子ども連れのファミリーをはじめ、幅広い層のお客さんたちでにぎわってます。
奥野:ドーナツが美味しいのはもちろんなんですが、店主のモットーである「COMMUNITY NOT COMPETITION」がお店の雰囲気を形作っています。「競争ではなく、コミュニティが大事だよ」という意味。インスタグラムでは、地元の他のドーナツ屋さんの宣伝をしているときもあるんです。
奥野:あとはお客さんとの接点の持ち方もいいなって。店内放送でドーナツが焼き上がると「●●さん、出来上がりましたよー!」って呼ばれるんですよ。楽しい感じで。理由を尋ねたら、番号よりも名前で呼ばれた方がいいでしょって。
庄田:地元ブリュワリー『Gigantic Brewing(ジャイガンティック ブルーイング)』のオーナーに話を聞いたときも感じました。衝撃的だったのが、ビールの話をほとんどしなかったこと。それよりもコミュニティの話をしていました。
奥野:もちろん、ビールにもこだわりがあるけれど、美味しいのは当たり前という感じですよね。
庄田:地域のためにブリュワリーがあるという考え方なんですよね。店内で開催するイベントも自分たちで企画せずに、地元のお客さんたちが企画してくれるらしくて。
奥野:やろうよ、やろうよってね。
庄田:僕たちは今のコミュニティに支えられている。だからこそ、それをベースに、地元の人たちが楽しめる状況をつくっていくんだって。ずっとその話を聞かせてもらいました。
庄田:あと、印象に残っているのが、立ち寄った商業施設のデベロッパーの社長さんですね。考え方のレベルがとても高いなと。土地がまだ値上がりしていない場所に施設をつくって、そのテナントにスモールビジネスを営む人やコミュニティを大切にする人ばかりを入居させるんです。
奥野:しかも、ホームレスの人が入居できる集合住宅をつくっていると言ってましたね。
庄田:そう。ポートランドにもホームレスの問題があるのですが、1階はビール屋さんで、2階は集合住宅なんです。なんでそういうことするんですか?って聞いたら、「俺がやらないと誰がやるんだ」って。めっちゃカッコいいですよね。ただ単に儲けるのではなく、地域のためになることをして儲ける。弱い立場になりそうな人に目を向ける。その社長さんだけでなく、いろんなところでその姿勢を感じました。
庄田:そろそろイベントの締めに入りたいと思います。冒頭でもお話した通り、『CREATIVE CAMP in ポートランド』では、ポートランドの表層的ではない、本質的な魅力を経験することができました。格好いいこと、テクニカルなことではなく、地元のチャレンジを応援する、コミュニティをつくっていく、そんなポートランドのカルチャーに驚くことばかりでした。今回の旅を振り返ってみて、奥野さんはどうでしたか?
奥野:現地キュレーターとして『CREATIVE CAMP in ポートランド』に同行しながら去年、一昨年と比べるなかで、発展していることもあれば、課題が浮き彫りになってきていることもありました。例えば、ポートランドに移住する人は毎年約3万人と言われていますが、そのぶん賃料の上昇などで、スモールビジネスを続けるのが難しくなってきている面もあります。それでも、地元のものを利用したい、地元の人を応援したいという気持ちは変わらずに根付いている。ポートランドのカルチャーが、ポートランドの街をつくっているのだと感じています。
庄田:コミュニティを大切にしよう、競争的ではなくてみんなで盛り上げていこうという精神が「まち」をつくっていく。僕たちもポートランドに習いながら、GOOD LOCAL COMMUNITYで地域により良いムーブメントやコミュニティをつくっていきたいと考えています。本日は以上となります。奥野さん、お越しいただきありがとうございました!
奥野:こちらこそ、ありがとうございました!
ポートランドの精神・文化をヒントに
GOOD LOCAL COMMUNITYのイベント第2弾【ポートランドから考える「まち」の未来】。特別ゲストの奥野さんに盛大な拍手が贈られ、イベントの幕が閉じられました。
トークセッションのあとは、アーキテンポ出店者『Cafe & Bar Rong』のおしゃれな料理をいただきながらの懇談会。いつかは訪れたい、まちづくりの参考にしたい、それぞれのポートランドの想いや考え方が交わされました。
福知山をはじめ、日本の地域のなかで、ポートランドと全く同じまちをつくるのは難しいかもしれません。それでも、ポートランドに根付くスピリットを模範したり、カルチャーをベースに物事を考えられるなら。より良い方向に向かうヒントを得られるはずです。
GOOD LOCAL COMMUNITYでは、地元のチャレンジを応援するムーブメント、地域をみんなで盛り上げていくためのコミュニティをつくっていきます。私たちのチャレンジを応援してくれたら嬉しいです。近日、WEBサイトも公開予定。今後の展開にご期待ください!
執筆・撮影:山本 英貴
写真協力:CREATIVE CAMP in ポートランド2019