レポート

エネルギーから考える“まち”の未来【Rooftop Salon vol.3 with 竹内 昌義】イベントレポート

2020/12/03

災害規模の豪雨。
海水温の上昇による台風の大型化。
命の危険にかかわる最高気温の上昇。

地球温暖化が要因とされる異常気象は、日本だけでなく世界的な問題です。規模感の大きい話なので、あまり身近に感じないかもしれません。でも、焦点をぐぐぐっと絞っていくと、私たちの日常を豊かにすることにもつながっています。

2020年10月17日に開催された【Rooftop Salon(ルーフトップ・サロン)】。福知山城を舞台とした『福知山イル未来と 2020』と同時期に実施されるナイト・トークイベントです。

最終回となる第3回目のゲストは、建築家の竹内 昌義(たけうち・まさよし)さん。『株式会社エネルギーまちづくり社』の代表取締役、建築設計事務所『みかんぐみ』の共同代表、さらに『東北芸術工科大学 デザイン工学部 建築・環境デザイン学科』の教授も務めています。

さまざまな肩書きをお持ちですが、主に携わっているのは、環境やエネルギーに配慮した住宅の設計やまちづくり。今回、竹内さんと一緒に、福知山市や私たちの暮らしからできることを考えました。当日のイベント模様をお届けします。

CO2排出の削減=再生可能エネルギーに変えること

イベントの前半で話されたのは、「日本と世界の再生可能エネルギーの動向」について。開始冒頭、まずは竹内さんから参加者に向けて問いが投げかけられました。

「二酸化炭素(CO2)の排出量を80%削減するためには、あと何年かかると思いますか?」

30年、100年、500年…?

参加者からの意見を受けて、「CO2の排出量を削減する=再生可能エネルギーに代替することです」と竹内さん。私たちが生きるために必要なエネルギーを“化石燃料”から生み出すのではなく、“太陽光発電・風力発電・水力発電・バイオマス”といった『再生可能エネルギー』に変えていくことでCO2の削減が達成されると解説します。

2016年に発効された『パリ協定』では、地球温暖化による危機的な状況を防ぐため、各国でCO2削減目標が掲げられています。実際、どのような取り組みがされているのか。竹内さんからいくつか事例を紹介してもらいました。

例えば、ドイツでは発電量に占める再生可能エネルギーの比率が約46%に達しています(2020年10月時点)。太陽光発電や風力発電の採用に積極的で、晴れた日や風の強い日には1日に使うエネルギー量を大幅に超えて、余った電力を自動車に活用しています。

また、森を中心とした循環も考えられており、地元の林業が生み出した製材を使って、地元の工務店が家をつくり、端材をカーボンニュートラルな燃料として活用。循環型の小さな経済構造が成り立っています。「森林面積が60%ある日本でも実現できるはずです」と竹内さん。地域活性のきっかけにもなりそうです。

その他、アメリカや中国、ヨーロッパ諸国の動向についても紹介してくれました。いずれも地球温暖化の影響を大きく受けており、CO2の削減&再生可能エネルギーの代替に向けて、さまざまな取り組みを進めています。一方で、日本はどのような状況なのでしょうか。

断熱性能の高い家が日本を変える

日本の再生可能エネルギー比率は約17.4%(2020年10月時点)。『パリ協定』では、2050年までに80%を達成すると公約しているので、まだまだ道のりは長そうです。また、日本は化石燃料を海外から輸入しています。そのために毎年20兆円が国外に流出しているのだそう。

竹内さんも「日本は資源の無い国と言われますが、そんなことはありません。海岸部は風が吹くので風力発電ができますし、温泉の熱で地熱発電もできますし、森林もたくさんある。莫大なお金が国外に流れてしまうのはもったいないですよね」と話します。

日本の未来のために、どのようなことができるのか。そこで竹内さんが着目しているのが「環境やエネルギーに配慮した住宅」。地域や私たちの暮らしを豊かにすることにもつながっています。

例えば、断熱性能の高い家づくり
言い換えれば、「夏は涼しく、冬は暖かい家」です。

窓、外壁、屋根、床などに断熱材を取り入れ、夏は室外の熱を通さず、冬は室内の熱を逃さない。冷暖房を使わなくても快適に過ごせる空間になり、光熱費をぐっと抑えられます。エネルギーの使用量を抑えられるので、地域外・国外に流れるコストも削減できますね。また、お亡くなりになる方が急増している「ヒートショック」は急激な温度差が原因。断熱性能の高い住宅なら、家全体が均一の温度なので健康面での予防としても期待されています。

これまで、竹内さんはいろんな場所で断熱エコハウスを手がけてきました。例えば、東北芸術工科大学がある山形県で設計したエコハウス。ストーブが設置されており、冬の寒い日でも朝・晩に焚くだけで快適な室温が保たれます。加えて、薪はバイオマス燃料なのでCO2の排出量も増えません。

また、岩手県紫波町では、断熱性能の高い住宅を地元の工務店と手がけています。冬の寒さが厳しい地域ですが、半袖で過ごせるほどの暖かさなのだそう。

複合商業施設『オガール紫波』には、紫波町産材木質チップを燃料に冷暖房・給湯用の熱を供給する「エネルギーステーション」や木造部分の構造躯体に100%町産のカラマツ材を活用した「紫波町役場」もあります。

竹内さんは「まずはバケツに空いた大きな穴を塞ぐことからはじめないといけない」と話します。住宅をバケツ、水をエネルギーと捉えたとき、これからは断熱性能の高い住宅、つまり、バケツの穴を塞ぎ、少量の水でも快適な住空間を保てるように変えていく必要があります。私たちの暮らしはもちろん、地域や地球環境のために。

前述した通り、断熱性能の高い住宅は光熱費を削減できます。従来であれば国外に流出していたお金です。例えば、地元の工務店に建築を依頼していたとすれば、そのお金は建設費や大工さんたちの手間賃へと変わり、さらには地元で買い物したり、飲み食いしたりする生活費へと還元されるでしょう。

このように竹内さんが手がける環境やエネルギーに配慮した住宅は、再生可能エネルギーの推進、地球環境の保護だけでなく、地域経済の循環を促進させるなど、さまざまな可能性を秘めています。

福知山にできること、一人ひとりにできること

CO2の削減、再生可能エネルギーの普及に向けて、世界各国での動きや竹内さんの取り組みについて説明してもらいました。イベント後半からは「福知山にできること」を考えます。

福知山市は人口が約7.7万人、世帯数が約3.6万世帯。1世帯あたり毎年約30万円のエネルギーコストがかかるとしたら、毎年約108億円が地域外・国外に流出していることになります。

これを少しでも減らせると、福知山市はもっと豊かになれるはず。そのためにはどんなことに取り組んでいけばいいのでしょうか。まずは行政の取り組みについて、いくつか提示してくれました。

「例えば、政策として推進すること。基本的な方針を定めて、長期的な計画を立てるべきです。実際、長野県では『気候非常事態宣言』『脱炭素化先進都市』を謳っていて、その上で取り組むべきことをロードマップ化して進めています」

住まいの屋根に太陽光発電を取り付け、断熱制度を高め、カーボンニュートラルに近づける。公共交通機関を推進して、自家用車の使用率を下げる。長野県ではこれらのような取り組みをひとつずつ実践しています。また、改革の推進力を高めるためにも、組織のあり方を見直すことも大切だと提案します。

「例えば、“住まい”に関わる分野ってたくさんあるんですよ。建築関係だけでなく、健康的な住まい環境や廃棄物の活用、地元工務店との連携など、多岐にわたります。これらを担当する部署を独立させるのではなく、横串的に連携できたほうがずっといいですよね。民間の人たちとも協力しながら公民連携の体制を目指すのもひとつの手段です」

身近な取り組みとして事例を挙げてくれたのが「学校の断熱改修」です。例えば、岡山県津山市の小学校で取り組んだ断熱改修ワークショップ。従来の教室に比べて、断熱改修した教室は冷房・暖房の消費電力が約半分で済むようになったそうです。

また、最近では、長野県の白馬村で『白馬高校断熱改修プロジェクト』が開催。雪国である白馬村はストーブが欠かせません。でも、校舎には断熱材がほとんど使われておらず、温まった空気が壁を通して流れ出ている問題が。そこで、学生が竹内さんに断熱改修ワークショップの開催を依頼。3日間かけて学生たちとDIYに取り組んだ結果、室温の変化を体感できているのだそう。

「断熱改修ワークショップで生まれる変化は、地域や地球環境の規模で捉えたら小さいものかもしれません。でも、みんなで集まり、ワイワイと楽しみながら取り組んだことで、日常の変化を実感でいたのならそれで充分。自分たちにできることが地球環境をより良くすることにつながっていると体感してもらうことが、何よりも大切なことだと思っています」

二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにする。今回のイベントが開催された後日、2020年10月26日、菅義偉首相が所信表明演説で表明しました。再生可能エネルギーの推進はさらに加速することでしょう。

このような現状のなかで、私たちなにができるのか。竹内さんは「まずは知ることから」と助言してくれました。身近な暮らしから変えられること、福知山市だからこそできることがあるはず。『Rooftop Salon』の最終回は、そんな可能性を感じるイベントになりました。

今回のレポートのテーマに少しでも関心を抱いたのなら、是非、詳しく調べてみてください。皆さんがそこで得た知識は、日常の暮らしだけでなく、地域や地球環境へとつながっています。